◇1stアルバム『only music』が好調みたいですね。
† ありがたいことです。ま、好調ってのは語弊あるな。あくまで俺の予想よりも多いってことだけっすわ。もっと閑古鳥の鳴く感じを想像してたんだよね。
◇それって過小評価すぎませんか?(笑)十兵衛くんのそういう低姿勢で謙虚そうな言動がムカつかれないのも才能だなってつくづく感心しちゃいますね(笑)
† 。。。もっと「俺様」でっていうなら芸風変えますよ、坂井さん?
◇イタズラっ子みたいな顔で笑わないでよ。ほんと性質悪そうだから、遠慮しときます。
† でも、売れるなんて思ってなかったのはホント。だって、ライブ会場とwww.な空間でしか売ってないんだもん、アレ(笑)売れるほうがおかしいよ。
◇なぜに?
† あのさ。街のライブハウスとかが大入り満員になってるのって坂井さんは経験ある?
◇あまりないです。
† じゃあさ、ライブハウスの名前だけでそのお店に入ることってありますか。
◇ないわ。
† そういうことっす。
◇や、それだけじゃわからない(笑)言葉を省くのは相変わらず健在ですね、キミ。もう少し説明を。
† え〜とさ。クラブは名前がブランドになってる部分があるから、ふらっと立ち寄っても、おーらいだったりするじゃん。定期のイベントとかが充実してたりさ。でもライブハウスってそーゆー感じが無いっすよね。誰も彼もが友達や同僚を見に来る。で、それだけ見て帰るのが平均的。だから、対バンを見るなんてのは稀で、さらにそいつのCDを買おうなんていうのは奇跡じゃない?も一ついうなら、ウェブ上での商売のいかがわしさ(笑)
◇たしかにそれはありますね。
† でしょ?個人のウェブショップってイマイチ信用置けないっすよね。商品ホントに届くんかよ、とか思いますもん俺。商品ページのリンクをクリックすんのだってかなりの勇気いるじゃん。しかも【壱零base】のウェブショップなんて俺のサイトからしかリンクしてないんで間口が狭いなんてもんじゃなくてピンポイント。だから、アルバムも、とりあえず作るけど注文がくるなんて思ってなかったんすよ。ま、それでも万一に備えての準備もしてはいたんですが。
◇ちゃっかりと(笑)
† や、最悪の場合を常に考慮って芸風。
◇あはは、「最悪」(笑)その表現は当てはまらないように思いますが。
† まぁ…。俺は、ほら、山に入ったりするじゃん。で、山歩いてるとさ、いいことばかりはありゃしないってのが常にあるんで。山なんて不自由と不便がデフォルトですから(笑)そーゆーのが染み付いてんすわ。石橋を叩きながら渡ったりはしないけど崩れて落ちるのには備えとく、みたいな。
◇憂いあっても備えりゃOK?
† うん。フィールドに足突っ込んじゃったら、そこはもう失敗しようが後悔しようが全部自分のことだからさぁ。何があっても嘆けないでしょ。だからさ、遠足は家に着くまでが遠足ですっていつも思ってるんです。致命傷くらわずにこの次の遠足も、ずっと先の遠足も楽しみたいな、と。
◇そんな小心かつアバウトな準備をしてたアルバムは、十兵衛くんの予想に反して意外な結果を産んでしまった、と。
† かなりね。
◇個人的には意外じゃあないんですが。
† え。なんで?逆に訊きたいよ。
◇気持ち、いえ、心地いいのね、【壱零base】の音楽が。雰囲気がとっても心地いい。よく音楽は人だ、と言われるけど、この雰囲気は「天野十兵衛」だなぁって思うんです。
† 小心かつアバウトな、だるだるでテケトーな感じの本人ね(笑)
◇いえ。心地よい浮遊感、あと全部がおーらい感を醸す人ってことです。
† それはハンマードダルシマーの音がそうだってだけだよ。俺の現物は見ての通り熊で、内面もドス青いよ。血の色はミドリ。
◇あいかわらず素直じゃないね(笑)最近、あたしはそのハンマードダルシマーの使われてるアルバムをいろいろ聴いてみたんですけど、心地よい開放感の感じられるものが無くてですね、十兵衛くんの音楽についての認識を新たにしたところなんですよ。結論から言うと、キミはかなりイレギュラーだなぁ、と(笑)
† あぁ、それはきっとそう。レギュラーって言葉が「正規の」って意味なら俺はその規格がわからないんだもん。弾き方も予備知識もなにもないゼロのままハンマードダルシマーを弾き始めちゃったから。この楽器を弾く人ってきっとアイリッシュミュージックやカントリーミュージックを通った人で、そういう音楽に対して誠実なリスペクトがあるんだと思う。俺はさ、そういう音楽を素敵だなって思いつつも全く通過しないまんまだったから。
◇そういうとこから出発してるからこそ、天野十兵衛という人を音が表すんでしょうね。
† 人かなぁ?着地点が違うだけじゃない?豆腐食べたい人に大豆渡したら、豆腐を作るじゃん。俺は醤油が欲しかったから大豆を醤油にしたんだよ。
◇とは言っても、そこで醤油を欲しがったのは十兵衛くんですよね。
† まぁ、そこは人なのかもしれないけど、その人は単純に「遊びたい」って思ってるだけの人だよ。
◇それにしても全体の心地よさは十兵衛くんだから出せるんだと思うんですよ。
† そっすかね?迷惑になってないだろかって、いつもビクビクしながら遊んでるだけなんだよ、俺。
◇迷惑?
† うん。俺さ、基本的に、外で遊ぶ人なのは坂井さんも知ってるよね。
◇もちろんです。
† だから。
◇その一言で完結させませんてば(笑)そこらへんもうすこし。
† だって、公園とかで弾くのにさ、気分のまんま際限なく感情垂れ流すのもどうかと思わない?俺が鬱な気分だからって憂鬱なフレーズでねちねちねちねちと遊ぶのも如何なもんかと思うんすよ。陽だまりの公園を気分よく散歩してる人の耳元を暗いフレーズが飛んでいくなんて極悪だよね。迷惑。聴かせるサービス精神は無いんだけど、聞こえる音には配慮したいなぁ、ってのがあるんです。ただでさえ、よくお邪魔してる井の頭公園はアンプの使用、管楽器、打楽器禁止ってとこまで譲ってくれてる。路上演奏だって本来違法。だから。
◇なるほど。そういう何気ない配慮とか優しさが音から伝わるんでしょうね。
† キレイにまとめようとしてるなぁ(笑)
■■ライブハウス゛ソラのした"ってそういう場所■■ |
◇いちファンとして必死です(笑)
† おもしろいなぁ(笑)
◇やっぱ血の色ムラサキのどぐされ野郎です、キミ。でも、そういう外道な着ぐるみの下には、他の音楽にはない不思議な穏やかさを漂わせる稀なキャラクターが見え隠れしてますよ。【壱零base】はオンリーワンミュージックだとあたしは思うんです。
† あはは、うまいねぇ。アルバムタイトル文字ってる(笑)
◇必死です(笑)でも、キミのやってることって、自分でもオンリーワンだと思うでしょう?
† ?
◇前に井の頭公園にお邪魔したとき、例のブルースおじさんと、小さい子向けの曲をやるジャグバンドとハンマードダルシマーを弾いてる十兵衛くんしかいなかったときがあったんだけど、後からギターを抱えて来た人たちが、君たちの存在を目にすると諦めたようにいなくなってしまったっていうのを見たことがあるのね。
† えっ。…うそ?
◇ま、君は通行人に背中を向けて池をぼへ〜ってながめながら弾くというストリートミュージシャンの風上にも置けないような暴挙をかましてましたからね。それはもう気分よさげに(笑)
† え、マジ?
◇そのとき一組の方をつかまえてですね、話を聞いてみたんだけど、一言「今日は最悪だ」と(笑)「こんな濃いメンツの中じゃやれないしやりたくない」そんなことを仰ってましたよ。しかもキミら3組が絶妙な距離をあけて良い演奏をしてるからどこにも割り込めない(笑)
† あぁ、その人も公園音楽が好きなんだねぇ。音が喧嘩しちゃわないよーにって思ったんだろね。悪いことしたなぁ。ま、カンさんと少年山賊団さんは素晴らしい公園音楽家だもんねぇ、有名人だし。俺も遠慮してますよ、いつも。
◇キミもその一員なんだという自覚はないんですね(笑)。そういうオンリーワンたちの中に入ってくのはきっとすごく勇気がいるんだと思いますが?
† そーかなぁ。そんな勇気とか大仰なもんいるかなぁ?ただの遊びじゃんか。遊びに理屈はいらないと思うんだけど。
◇相変わらずキミの音楽の基本は「遊び」なんですか?。そこらへんはライブを重ねるようになった今でも変わってない?
† そうっすね。
◇オンリーワンの意識もない?
† ん。無関心がデフォルトなんだろうね。オンリーとかワンとか個性とか差とかどうでもいいしワカラナイ。今って、いろんなところにオンリーワンがいっぱいあるしね。だから結局、何をやったって、オンリーズでしかないしワンズでしかないよね?
◇天の邪鬼体質全開な発言されてますね(笑)
† うん。そこは自覚ある。でも例えばさ、民族楽器とか古楽器を、デジタルと融合させたり、そーゆー楽器でロックや現代的な音楽をやるのってのも、今風なのかもしれないけど、新しくはないよ。誰だってやってるもん。斬新だって言われるよーなことだって、どっかで誰かがやってると思うし。それこそ【微炭酸】みたいな得体のしれない不定形の化け物バンドだってあるんだしさ(笑)ま、こんな御託だって、今までにいろんなとこでいろんな人が言ってんじゃん。だから俺は自分の好きなことを好きなようにやれればそれでいいよ。
◇ 俺様な芸風もデフォルトだったんですね、キミは(笑)新たな発見です。
† 理屈や環境より身体と気持ちを優先。それに俺自身が理屈云々にアンテナ立たないんで。コードがどーの展開がどーの技巧が、とかってのもどーでもいい(笑)技やアイディアは重要かもだけど、そういう幅ってのは必要なときには広がってくものだし。技やアイディアたけで音を出したら、うんざりしそうじゃん?
遊んでる俺がうんざりしててどーすんのよ、みたいな。
◇技巧やトリックはいらない、と?
† 栄養素って偏ったらダメじゃん? カルシウムがイライラにはいいからって、毎日毎日毎食毎食煮干しばっか山盛り出されたらイライラするじゃん。
◇謂い得て妙ですね。
† トリッキーなこととか、良いアイディアは必要になった時に使えればいいと思ってます。ま、そこでそれが技量的にできないんだったら、できるまでやろうとはするけどね。新曲がそんな感じだったし(笑)
◇必要な努力ならする、と。
† 必要なら努力とも思わないでやるでしょ。まぁ、まだ相も変らず野外の空気に包まれて、気の向くままに音出して、ってほうが楽しいんで、ね。そーゆー中で何気ない音やフレーズが誰かの耳に留まってくれればそれで全部おーらいなの。
◇なるほど。
† 『ライブハウス“ソラのした”』ってそーゆー場所なんだよ。
◇ライブハウス“ソラのした”。なんか素敵ですね。
◇セッションなどはするんですか?
† 公園だとふらっと入ってくる人もいますね。(指折り数えながら)ギター、ディジュリドゥ、オカリナ、アコーディオン、ジャンベ、バイオリン、トランペット、ハーモニカ、ピアニカ、篠笛。あと、この前、スタジオ入ってマリンバの方とも遊びましたよ。
◇楽しそうですね。そういう人にサポートをお願いしたりはしないんですか?
† 時折、他の楽器の音が欲しくなったりするんだけど、ライブでサポートを頼もうとはまだ思わないな。自分から声かけたりするの面倒なんですよ、すごく。時間合わせて練習したりとかも。
◇なまけ体質も相変わらずですね。でもそれだけですか?
† なんか今日は食下がりますね、坂井さん。
◇必死よ(笑)それに今日はいろいろ勘ぐってみようと思ってるので(笑)
† それだけだよ。って言ってもいいんだけど?(笑)
◇そんなこと言わないで(汗)
† ……【壱零base】ってライブでも屋外でも遊びだからさ。誰かが入ってくれるのは遊びとして素敵なんだけど、でも、そこでさ、あの楽器が入らないとこの曲はライブでできねぇや、みたいになるのが嫌なんですよ。だから。
◇自分と曲に責任は持ちたい?
† 責任かぁ。。。考えたことないけど、そうなのかもな。責任ね、うん。なんなんでしょう、一体。誰か俺を説明してくれ(笑)ま、いつかどっかで仲間と一緒にライブしたいしアルバムも作れたらいいなって思ってます。かなり先のことだろうけどねぇ。
◇そういうのを待ってるファンも多いんじゃないですか?
† 多いのかなぁ。そこらへんは分からないんだよね。そーゆー声も要望も聞こえないし、リサーチとかもしてませんもん(笑)でも、俺の音楽活動は利潤の追求がメインじゃないんで、そこでそーゆーのを待たれても「ごめんなさい」ってしか言えないかなぁ。
◇そういう意見ってホントに聞こえてきませんか?
† 音楽って、聴く人によりますよね?音数の少ないのを好む人もいるし、間と余韻を好む人もいるし。逆に音が多いのを好む人もいるし。だから、要は、その人の中でどんな音が鳴るのかってことなんじゃないかなぁ。同じフレーズでも「せつないですね」って人もいれば、「楽しいですね」って人もいるんだよ。おもしろいよね(笑)だから、ハンマードダルシマーの音は鳴るけど、それを補う他のパートは、聴いてる人の中で好きなように鳴ってて欲しいんだよなぁ。
◇その、「曲」ですが、どのようにして作るんですか。
† なんとなく。
◇怒りましょうか?(笑)
† ほんとになんとなくですよ。ハンマードダルシマーで遊んでるうちに、おっ!?て感じで頭の上に「?」とか「!」が飛び出るフレーズが生まれたりするんで、そういうので延々と遊んでると、その先にくる音もいつか出たりして。そうやって進んだり退いたりしながら育てるんですわ。
◇十兵衛パパですね。
† うん。ついこないだまで小っちゃいのと一緒に遊んでたのに、今じゃこんなでっかくなっちゃったなぁ。なんて感慨が子育ての醍醐味っすね(笑)
◇実感こもってますよ(笑)
† だってパパだもん。子育てって試行錯誤らしいし、コツも「忍耐と寛容」らしいんで、曲もそこらへんをベースにして気長に遊ぶんです。
◇育て方を間違ってしまった曲なんて無いんですか?
† 親はなくとも子は育つよ。てか、親はいい加減なんだけど、環境が良いおかげで良い子が育ってる、そんな感じ(笑)聴いてくれてる人たちが良いご近所さんちっくなんだろね。いろいろ大切にしてもらってんです。CDに入ってるけど、公園でもライブでもやらない曲を気に入ってくれてた人が、偶然井の頭公園で俺を見かけた時にリクエストしてくれたりとかあったんだけど、そーゆーのってすごくありがたいし嬉しいんよね。
◇人それぞれ感性や好みがありますからね。
† だから、俺も自分の遊びは自分で愉しみたいんすよ。てぇか、音楽の根っこって、そこじゃないの?
◇ここでそれを問いかけられても…。
† 誰かの顔を想像しながらとか、高額紙幣の顔を想像しながらって曲はプロにお任せしますよ。やはり遊びは自分が愉しくないと(笑)
=第2回 了=
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