◎ インタビュー 第3回 ◎

■■「No Music. No Life.」な人じゃないんですよ、俺は■■

◇DVDありがと。行けなかったライブだったんで、見られて嬉しい。あの内容で無料配布っていうのは素敵。自分からDVD欲しいって言ったにも関わらず、封筒開けたとき、何か違うものが送られてきたのかと思っちゃったよ。「十兵衛くん、何送ってきたんだろう?」って(笑)

わははは、違うもの!(笑) 確かにうっかりさんではあるからなぁ、俺。。。否定しないよ。坂井さんとこだけほんとに違うもん送ったかもしれないし。

◇あははは。サイトにあったけど、本当に130人に無料発送したの、海外の人も含めて?

うん。

◇キミの音楽は無国籍、いえ、エスニックって意味ではなくてノーボーダーな感じだから、どんな人が聴いてもその人の心象風景を描き出すことができる。だから、そういう部分で、海外の人に受け入れられたんだなぁって、一ファンとして嬉しく思います。

海外、っていうとなんか大げさに聞こえるよ。単にノルウェーと中国とオーストラリアと、あとどこだっけ? ま、いくつかの国の人から「俺も欲しい」って手が挙がったから送っだけっすよ(笑) それに今、坂井さんが無国籍って言ったけど、音楽ってそれ自体にゃ、国籍なんてないじゃん。「籍」なんて考えるのは人だけだよ。音にはパスポートとか無ぇし。だから、俺は大げさなこととか特別なこととかしてるわけじゃないよ。ただ、音を鳴らしてるだけ。

◇でも、どう? 日本以外のひとたちが【壱零base】を聴いてるというのは?

world wide webって空間はすげぇなぁって。

◇そこかい!(笑)

だって、デフォルトの俺って井の頭公園で遊んでるだけっすよ。前にも言ったけど、聴かせるサービス精神とか、営業努力みたいなもんは無いし。坂井さんだって知ってるように、俺は相も変わらず池とか眺めながら、半径5mで音と遊んでるだけ。だから、俺の中では神奈川や九州の人が【壱零base】を聴いてくれるのも、海の彼方のどっかの人が聴いてくれるのも「遠い人」ってとこでは同じなんです。そういう人が俺のことを知れるってのは、やっぱworld wide webって不思議な空間のせいでしょう?

◇なるほど。で、あのDVDを海外も含めて130人全員にプレゼントっていうのはかなり十兵衛経済に打撃を与えたと思うんだけど大丈夫?(笑)

いきなり現実的なネタで嫌だなぁ、坂井さん(笑)でも、そういうもんが痛手だって思うならやらねーし、俺。

◇でも、予想以上だったわけですよね?

うん。まぁね。最初はさ、「東京までライブ見に行けないからDVD出してほしいです」とか「YouTubeにアップ希望」とか「東京行ったついでに井の頭公園に行ったけど、いなくて残念でした」ってメールくれた人たちのことが頭に浮かんだだけだったんすよ。だけどさ、その人たちだけに向けてピンポイントで「ビデオ撮ったから送ろうか?」って尋ねるのもなんか変態っぽくてヤじゃん。だからなるべく公平つーか、人間味を無くしたくてメルマガでさらっとお知らせしたんよ。俺の読みとしては10数人の手が挙がるって感じだったんで。でも、その後に、メルマガに登録はしてないけど、ライブにちょくちょく顔出してくれる人とかさ、井の頭公園とかでよく会う人とかの顔も浮かんじゃって、「ああ、あの人とかきっと欲しいって言うよなぁ」なんて思ってしまって、遅れてサイトでもお知らせしたんです。で、しばし様子見だなぁってのんびりしてたら、毎日毎日いろんな人からメールが来て、あわわわって(笑) あんなに手が挙がるとは思ってなかったから吃驚した(笑) でもね、全く知らない人からも「2年前に吉祥寺で聴いて以来、サイトはチェックしてます」とか「この前のライブに偶然いたんですけど」とか「遠いんで、実際に見たことはないけど、ネットでのチェックは欠かしてません」とか「よく井の頭公園でお弁当食べながらこっそり聴かせてもらってます」って、いろんなメールが来てさ、そういうのがすごく嬉しかったんですよ。だから、白いDVD−Rにデータだけ閉じ込めて送ればいいよな、ってはじめに思ってただけのことが、どんどん欲が出ちゃってさぁ、気づいたら、パッケージングとか盤面とかまで作ってしまった(笑)かなり楽しかったすよ。

◇負担には思わなかった?

うん。愉しいことで負担って感じないじゃん。材料買ったりするのも楽しいしね。見栄とかハッタリじゃなくて、こーゆー時、お金がどうのとかって考えられないんだよね、俺。

◇あはは、道楽者(笑)。

道楽すよ。キホン、音と遊んでられれば、すべておーらいなんだもん、俺。ハンマードダルシマーに出会って、偶然ライブに誘われて、誘われ続けてるうちに、「CD欲しい」って人がいたから作ってってふうに続いてることだから、【壱零base】は。「聴いてくれ!」みたいなのものって無いんよ。まぁ、全般的に攻めの姿勢ってもんを父ちゃんのタマん中に置いてきてるみたい。

◇タマ……(苦笑) とりあえずインタビューなんだしさ〜、誰が読むのかわかんないのが前提なんだから言葉選ぼうよ、キミ(笑)

あはは。や、つい坂井さんを前にすると素に……。

◇あはは。でも、そこで「攻めの姿勢が無い」って言っちゃうんだ? 最近いろんな場面で活躍してるじゃない。

活躍してないじゃん(笑) 営業とかもまったくしてないし、するつもりもないよ。いろいろ声はかかってるけど、アンテナの立たない誘いは断るし。そういう点、商業音楽をやってるわけじゃないから利潤を追及しなくて済んでます。だから、逆に、生活に支障をきたすくらい経済的打撃を受けたらやらないよ、【壱零base】は。

◇え? そうなっても続けそうだと思ってるんだけど?

ま、ハンマードダルシマーで遊ぶことはやめないと思うけど、でも、ライブとか、プレゼント企画はしないっすね(笑) そこまで努力家でもないし、いい人でもないから、俺。あのDVDも、ただ、懐具合が暖かくなりすぎるのも搾取してる感じで居心地悪いなぁって思ったからでもあるんです。少しでもみなさんにお返ししなきゃ気分よくねぇな、ってね。常に収支決算はプラマイゼロ近辺をうろうろさせときたいってのも基本。

◇世にいるインディーズミュージシャンの半分から恨みを買いましたね、今(笑)

え、うそ。

◇確実に(笑)

え? 何か変なこと言った、俺?

◇キミの余裕っぷりと無自覚は、殺意をおぼえさせるのに十分だって思います。どれだけ巷のミュージシャンが生活を削って頑張ってるか。無知って罪よね(笑)

でも、「No Music. No Life.」な人じゃないんですよ、俺は。

◇そう? 結構、十兵衛くんは「No Music. No Life.」な人だと思ってますけど、あたし。

そういう部分もあるっちゃあるけど。。。どっちかってぇと「No Music No Life. But, No Life No Music.」って感じす。

◇あはは、天の邪鬼(笑) 久しぶりの十兵衛節だわ。音楽なしじゃ生きられない。でも生活なければ音楽もない(笑)

うん、そう。俺はね、ずっとそうなんだけど、ハンマードダルシマーと一緒に、気がむいたとき遊べりゃそれでいいんすよ。

■■スペック表で買い物しない人なんだよね■■

◇そう、それも気になってることだったんですが、公園で遊んでる音とライブで遊んでる音とじゃ、えらく雰囲気違いますよね。

†うん。

◇じゃぁ、 ライブっていうものは十兵衛くんの中ではどんな位置なの? 最初にライブを見たときはハンマードダルシマー単体でライブしてたけど、最近では機材と、それに映像も使うような進化を遂げてますが。

進化(笑) んな大仰なもんじゃないよ。

◇【壱零base】のホントっていうのはどっちなんです?

どっちも。

◇怒りますよ。

ほんとだって。

◇……じゃぁさ、ライブでああいう試みをするようになったのはなんで?

悪戯心かなぁ。

◇その悪戯心があたしとしては興味あります。

……(しばし沈黙)……音楽って、さ。単に音色と音符で出来てる単純なもんじゃないじゃん?

◇???? どーゆうこと?

体験と記憶。かなぁ……。

◇お久しぶりです(笑) この十兵衛くんに会えてモーレツに嬉しいわ、あたし。でもとりあえず、その「体験と記憶」っていう十兵衛語の日本語訳をお願いします。

お久しぶりです(笑) 目が一瞬マジになるこの坂井さんに会えて俺もモーレツに嬉しいです(笑)

◇ありがと。じゃあ「体験と記憶」の訳をおねがいしますね。

なんか、こう、どっかにプラグを挿して俺の言いたいことを全部転送できたら楽なんだけどねぇ。

◇伝えるツールとして言葉があるんだから頑張って使ってみてください(笑)

念じるから読み取ってくれない? 念じれば通ずっていうじゃん。

◇じゃぁ、あたしが念じるから、十兵衛くん感じ取ってよ。

ん〜……。早く答えろコノヤロウって思ってますね坂井さん(笑)

◇困ったわ。確かに通じるものね(笑)

目が笑ってなくて恐いすよ。なんかセンセーみたい。

◇先生怒ったりしないから言ってごらんなさい(笑)

や。。。反射で出た言葉なんでアレなんだけど。。。たとえばさ、音ってさ、それ聴いたときの陽射しとか、季節とか、気分とか、なんかそういうのとセットじゃね?

◇うん。たしかにそういうとこあるわね。

だから。

◇あはは。。。……「あとは、行間を読んでください」と?

それで通じるよ、多分。てか…涙目になってません、坂井さん?(笑)

◇この人にインタビューしたいと思うあたしってバカだなぁていう後悔の涙目です、これは。

んじゃあ、もーちょい頑張ってみます(笑)

◇よろしく(笑)

(しばし考えてる様子で)……ん〜。俺は、井の頭公園で【壱零base】を聴いた人のデフォルトって、やっぱ井の頭公園での音だと思うんですよ。それって多分にインプリンティングなんだろうけど、やっぱライブハウスっていう空間も独特でさ、たとえ井の公と同じように生音でやったって、それは気分的にニセモノだなぁ、って。ニセモノのニセモノ感って奇妙にじゃん(笑)  ニセモノの精度が高きゃそれなりに騙せるのかもしれないけどさぁ。井の公の音がホンモノですとも言いたくないんだけど、でもやっぱ外とハコの差はあるんだろうな、って。

◇だから、敢えてハンマードダルシマー単体ではライブしないと。

敢えて、つーか、そうじゃないと俺が楽しくないからだよ。ライブハウスにはライブハウスの空気感があるし、ライブハウスならではの良さがあるんだからさ、それを楽しみたいなぁ、って。せっかく対バンさんとかもいるんだし、いろんな歌があるんだし、PA設備もあるんだし、そこにある「人」と「空間」と「音楽」の中で、どーやって遊ぼーかなぁってしか考えてないす、俺。で、そーやって思ったときに、何も生音とか単体とかにこだわるよりも、せっかくPAとかそーゆう環境があるんだから使わない手はないなぁ、って(笑) したら、それが楽しくてさぁ。おかげで今、あんなです。

◇なるほど。ゆえにどちらも【壱零base】の音ってことですね。

そ。その両方をね、その空間で一緒してくださってる方々も楽しんでもらえんなら、こんなに素敵で楽しい遊びはないっす。

◇そういう点では、成功してますよ。「月星夜」とか「静かの海」、「呼ぶ声に耳を澄ませて」はライブで聴くのが楽しみですから、あたし。

ありがと。成功ってのがよくわかんないんだけど、大ゴケはかましてないと思ってます(笑) まぁ、俺はヒーリング系やらスピリチュアル系なもんは「何それ?」な人なんで、そういうのを求めてる人からは、それなりに嫌われたりもするんだけど。あと、ハンマードダルシマーが正統的に使われてる音楽が好きな方からも、変だねぇって言われますけど(笑) でも、自分が鳴らしたい音を鳴らしたいように鳴らすことはできてるし、曲によっては機材や音をどう足そうかとか、どう使おうかとか悪企らんでるのも楽しいし、それ聴いて、見てる人が吃驚してんのを見るのも楽しいんす。

◇イレギュラーなハンマードダルシマー弾き、天野十兵衛(笑) でも、そう言いたくなる気持ちもわかるわ。あたしも十兵衛くんに会って以来、YouTubeとかでハンマードダルシマーの音楽をチェックするようになったんだけど、どう聴いても【壱零base】だけ様子が違う(笑) 個性的な方々がたくさんいて、みんながワン&オンリーな世界を作ってて、ハンマードダルシマーという楽器は「一人一流」なものなんだなぁとすごく感じてはいるんだけど、でも、【壱零base】だけが妙(笑)

ミョーってそんな(笑)。。。ただ好き勝手弾いてる「独りあそび」なだけっす。

◇だから「妙」なんじゃないでしょうか十兵衛くんの音は。

多かれ少なかれみんなそうじゃないんすか?

◇でもキミは楽器に対する先入観とか固定観念とかがなかったでしょ? 大部分のハンマードダルシマー奏者には、風土や文化的な背景があったりしたと思うんです。または、アイリッシュやブルーグラスを聴いてハンマードダルシマーという楽器を知ったり。

あぁ。それは俺になかったっすね。アイリッシュとかも部屋で流したりしてたけど、そこでハンマードダルシマーとは出会ってなかったし。俺は音楽はマニアックな聞き方とかしないんで詳しくないし、ギターポップ的なものもダンスミュージック的なものも、邦楽も洋楽も適度にとっちらかしっぱなまま昔っから好きなんですよね。車ん中では好きな曲だけ聴いてたいから、マイベストみたいなCD作って聴いてたりすんだけど、友達からは失笑がもれます(笑)

◇どんだけだよ(笑)

聴く? 今日は良いタイミングでマイベスト的なテープが入ってるんで。今朝まではTHE theばっか聴いてたんすけど。

◇あ、聴きたい聴きたい! てか、ほんとにテープ!! カセットテープなんですね(笑)

うん。最近の俺の流行りなんよ。カセットに落とした音をこのヘッドホン(ASHIDAVOX ST-3)で聴くの。オモロイよ(笑) どんなドラマチックに音処理した曲でも、これを通すと、その脚色が剥がれるような。女の子のメイクを片っ端から落としてスッピンにするようなそんな音になんのがおもしろくて。

◇なんだかすごくヒトデナシな聞き方ですね、それ。

でも、そういう聞き方もあっていいじゃん。独特な音のするヘッドホンだから、今まで気付かなかった音に気付いたりするよ。今日、ここに来るまで、自分の好きな曲をこれで聴いて、どんな発見があるかなぁ、って思ってたんすよ。あ、はいどーぞ。とりあえず、70〜90年代の曲ばっかですが。



(コーヒーブレイク)



どですか?

◇失笑はしないけど、……十兵衛くんの脳内を垣間見られた気がします(笑) 基準がない!(笑)
TUBLER BELLS(the myistic sound)
GONE GONE(sports guitar)
ALL THAT SHE WANTS(ACE OF BASE)
batonga( handred birds)
LIFE IN ANORTHERN TOWN(dream achademy)
country load(jhon dember)
BOXER(S&G)
LOVE THE ONE YOU ARE WITH(islry brothers)
fast boyfriend(girls at our best!)
takefive(The Dave Brubeck Quartet).....etc
こうゆうのを聴いてる人からなんでああゆう音楽が出てくるのか不思議だし、むしろ逆にこういう人だからこそあの音楽を生めるのかと納得したり。とにかくおもしろかったです。

あはは。まぁ、別に不思議でも何でもないじゃん。ブルース好きな人だってヒップホップ聴いたりすんだろーしさ。坂井さんだって多かれ少なかれこうゆうとこあるでしょ?

◇確かにそうですけど(笑) クラシックやってる人がクラシックしか聴かないなんてことはないだろうし。自分のジャンルだけにどっぷりってゆう人はむしろいないとは思います。でも、多分他の人はもっとジャンル的なくくりがあるんじゃないかな? 十兵衛くんはほんとに傾向と対策がない感じ(笑)

ジャンルって意識したことないんだよね、俺。結構疎いよ。全部、ただの音楽だと思ってるし(笑) きっと昔々の音楽屋さんだって、ただ自分の中に浮かんだ音を鳴らしてただけだと思うんだよね。それにさ、ジャンルってもんは商業ベースのものじゃん?

◇まぁ、そういう側面があることは否めないわね。

歴史には残ってないんだろうけど、昔々にだってストリートミュージシャンみたいな人はいてさ、その国のその時代でその人が思ったように好きなように音で遊んでたと思うんです。俺って、どっちかってゆうとそっち側かな、と(笑)

◇キミの土台は「微炭酸」ですからね(笑)

うん、それはあるね。

◇だから、音楽の捉え方も自由なのかなって、あたしは思うんです。だからこそ、ああゆうコメントがYouTubeについちゃってるのもうなづけるし。

へ? YouTube?? ごめん。まじわからない。

◇あのですね、ある動画に 「すごい! どうやって弾いてるの? 手元が見えるように撮して!」っていうようなコメントが海外のダルシマー奏者さんからあるんですよ。あたしはそれを読んでニヤリとしました。

あらら、まじで? 率先して動画とか見る人じゃないんで。つーか例え見てたとしても英語苦手なんで読まないと思う。でも、「どうやってひいてるの?」って言われても(笑) 「フツーに弾いてください」としか言えないっす。

◇だから、なんかどっかが違うのよね、キミは。

「なんかどっか」(笑) ある意味、死刑宣告っすね(笑) 決定的にもうどーしょーもないとこから違うって言われてる気分っすよ、それ。

◇十兵衛くんは奇抜さを売りにしてるわけでも、速弾きなどのテクニックでアピールしてるわけでもないですよね?

うん。自分が弾きたいように弾いてるだけっす。奇抜さを狙って音楽やるのってどーなの? って思うし、特にポリシーあって弾いてるわけじゃないし、誰かの真似をしようとも思ってないし、誰かと違うことをしようとも思ってないし。つーか俺は武器ってもんを持ってないんで。で、速く弾きたいとかも思わないし、テクがどーのとかってのも興味ないし。結局はなまけたろうなんよ。

◇ミステリアスハンマードダルシマープレイヤーってタイトルで誰かが動画をアップしてたけど、ミステリアスっていうより曲者って言いたいわ、あたし。

あはは、クセモノ(笑) そういう響きは好きっすね。

◇でもホント、十兵衛くんて、そうよ。いろいろ得体が知れない。サイトもしっかり作ってあるのに、結構肝心なところがなかったりするじゃん。それに、すごくミュージシャンぽくないというか。。。なんというか、アーティスト特有のハッタリらしきものがない(笑) いろいろ依頼をこなしてるわりに、メディア情報とか【壱零base】ワークスみたいなものも書いてないし、見る人に強くアピールするようなプロフィールとか宣伝文句らしきものもない。アーティスト同士のつながりとかも不明(笑) ゆえにナゾ。

だって、俺がそーゆーものをネタにして音楽聴かないから。俺の音楽を聴く基準て単純っすよ。ただ自分がその曲を好きかどうかでしかない(笑) アーティスト同士のつながりってとこもさ、遺伝子がスナフキンでできてるんで、多分、ムーミン谷のみんなが冬眠しても俺だけ起きてるよーな、そんな感じでしょ、俺は。プロフィールだって、坂井さんが前にしてくれた素敵なインタビューをサイトに貼ってあるから、あれで充分かなぁって思ってるんです。

◇いや、あれを代用されても(笑) もっとこう、自分を印象づけるような「CD手売りで2500枚完売!!」とか「誰々に師事!」とかそういうのやろうよ。

二つ返事で拒否!(笑)

◇なんで〜?

スペック表で買い物しない人なんだよね、俺。あと、「○○○、何mg配合」とか「ぼくらのコーディネイト術」みたいなのに乗っかることができない人なんすよ。だからサイトも自分で好きなよーに作ってます。印象とか受けとかはどーでもいいです(笑)


              =第3回 了= 20080228





◎ インタビュー 第2回 ◎

■■石橋を叩きながら渡ったりしないけど■■
■■崩れて落ちるのには備えとく、みたいな■■

◇1stアルバム『only music』が好調みたいですね。

† ありがたいことです。ま、好調ってのは語弊あるな。あくまで俺の予想よりも多いってことだけっすわ。もっと閑古鳥の鳴く感じを想像してたんだよね。

◇それって過小評価すぎませんか?(笑)十兵衛くんのそういう低姿勢で謙虚そうな言動がムカつかれないのも才能だなってつくづく感心しちゃいますね(笑)

† 。。。もっと「俺様」でっていうなら芸風変えますよ、坂井さん?

◇イタズラっ子みたいな顔で笑わないでよ。ほんと性質悪そうだから、遠慮しときます。

† でも、売れるなんて思ってなかったのはホント。だって、ライブ会場とwww.な空間でしか売ってないんだもん、アレ(笑)売れるほうがおかしいよ。

◇なぜに?

† あのさ。街のライブハウスとかが大入り満員になってるのって坂井さんは経験ある?

◇あまりないです。

† じゃあさ、ライブハウスの名前だけでそのお店に入ることってありますか。

◇ないわ。

† そういうことっす。

◇や、それだけじゃわからない(笑)言葉を省くのは相変わらず健在ですね、キミ。もう少し説明を。

† え〜とさ。クラブは名前がブランドになってる部分があるから、ふらっと立ち寄っても、おーらいだったりするじゃん。定期のイベントとかが充実してたりさ。でもライブハウスってそーゆー感じが無いっすよね。誰も彼もが友達や同僚を見に来る。で、それだけ見て帰るのが平均的。だから、対バンを見るなんてのは稀で、さらにそいつのCDを買おうなんていうのは奇跡じゃない?も一ついうなら、ウェブ上での商売のいかがわしさ(笑)

◇たしかにそれはありますね。

† でしょ?個人のウェブショップってイマイチ信用置けないっすよね。商品ホントに届くんかよ、とか思いますもん俺。商品ページのリンクをクリックすんのだってかなりの勇気いるじゃん。しかも【壱零base】のウェブショップなんて俺のサイトからしかリンクしてないんで間口が狭いなんてもんじゃなくてピンポイント。だから、アルバムも、とりあえず作るけど注文がくるなんて思ってなかったんすよ。ま、それでも万一に備えての準備もしてはいたんですが。

◇ちゃっかりと(笑)

† や、最悪の場合を常に考慮って芸風。

◇あはは、「最悪」(笑)その表現は当てはまらないように思いますが。

† まぁ…。俺は、ほら、山に入ったりするじゃん。で、山歩いてるとさ、いいことばかりはありゃしないってのが常にあるんで。山なんて不自由と不便がデフォルトですから(笑)そーゆーのが染み付いてんすわ。石橋を叩きながら渡ったりはしないけど崩れて落ちるのには備えとく、みたいな。

◇憂いあっても備えりゃOK?

† うん。フィールドに足突っ込んじゃったら、そこはもう失敗しようが後悔しようが全部自分のことだからさぁ。何があっても嘆けないでしょ。だからさ、遠足は家に着くまでが遠足ですっていつも思ってるんです。致命傷くらわずにこの次の遠足も、ずっと先の遠足も楽しみたいな、と。

◇そんな小心かつアバウトな準備をしてたアルバムは、十兵衛くんの予想に反して意外な結果を産んでしまった、と。

† かなりね。

◇個人的には意外じゃあないんですが。

† え。なんで?逆に訊きたいよ。

◇気持ち、いえ、心地いいのね、【壱零base】の音楽が。雰囲気がとっても心地いい。よく音楽は人だ、と言われるけど、この雰囲気は「天野十兵衛」だなぁって思うんです。

† 小心かつアバウトな、だるだるでテケトーな感じの本人ね(笑)

◇いえ。心地よい浮遊感、あと全部がおーらい感を醸す人ってことです。

† それはハンマードダルシマーの音がそうだってだけだよ。俺の現物は見ての通り熊で、内面もドス青いよ。血の色はミドリ。

◇あいかわらず素直じゃないね(笑)最近、あたしはそのハンマードダルシマーの使われてるアルバムをいろいろ聴いてみたんですけど、心地よい開放感の感じられるものが無くてですね、十兵衛くんの音楽についての認識を新たにしたところなんですよ。結論から言うと、キミはかなりイレギュラーだなぁ、と(笑)

† あぁ、それはきっとそう。レギュラーって言葉が「正規の」って意味なら俺はその規格がわからないんだもん。弾き方も予備知識もなにもないゼロのままハンマードダルシマーを弾き始めちゃったから。この楽器を弾く人ってきっとアイリッシュミュージックやカントリーミュージックを通った人で、そういう音楽に対して誠実なリスペクトがあるんだと思う。俺はさ、そういう音楽を素敵だなって思いつつも全く通過しないまんまだったから。

◇そういうとこから出発してるからこそ、天野十兵衛という人を音が表すんでしょうね。

† 人かなぁ?着地点が違うだけじゃない?豆腐食べたい人に大豆渡したら、豆腐を作るじゃん。俺は醤油が欲しかったから大豆を醤油にしたんだよ。

◇とは言っても、そこで醤油を欲しがったのは十兵衛くんですよね。

† まぁ、そこは人なのかもしれないけど、その人は単純に「遊びたい」って思ってるだけの人だよ。

◇それにしても全体の心地よさは十兵衛くんだから出せるんだと思うんですよ。

† そっすかね?迷惑になってないだろかって、いつもビクビクしながら遊んでるだけなんだよ、俺。

◇迷惑?

† うん。俺さ、基本的に、外で遊ぶ人なのは坂井さんも知ってるよね。

◇もちろんです。

† だから。

◇その一言で完結させませんてば(笑)そこらへんもうすこし。

† だって、公園とかで弾くのにさ、気分のまんま際限なく感情垂れ流すのもどうかと思わない?俺が鬱な気分だからって憂鬱なフレーズでねちねちねちねちと遊ぶのも如何なもんかと思うんすよ。陽だまりの公園を気分よく散歩してる人の耳元を暗いフレーズが飛んでいくなんて極悪だよね。迷惑。聴かせるサービス精神は無いんだけど、聞こえる音には配慮したいなぁ、ってのがあるんです。ただでさえ、よくお邪魔してる井の頭公園はアンプの使用、管楽器、打楽器禁止ってとこまで譲ってくれてる。路上演奏だって本来違法。だから。

◇なるほど。そういう何気ない配慮とか優しさが音から伝わるんでしょうね。

† キレイにまとめようとしてるなぁ(笑)

■■ライブハウス゛ソラのした"ってそういう場所■■

◇いちファンとして必死です(笑)

† おもしろいなぁ(笑)

◇やっぱ血の色ムラサキのどぐされ野郎です、キミ。でも、そういう外道な着ぐるみの下には、他の音楽にはない不思議な穏やかさを漂わせる稀なキャラクターが見え隠れしてますよ。【壱零base】はオンリーワンミュージックだとあたしは思うんです。

† あはは、うまいねぇ。アルバムタイトル文字ってる(笑)

◇必死です(笑)でも、キミのやってることって、自分でもオンリーワンだと思うでしょう?

† ?

◇前に井の頭公園にお邪魔したとき、例のブルースおじさんと、小さい子向けの曲をやるジャグバンドとハンマードダルシマーを弾いてる十兵衛くんしかいなかったときがあったんだけど、後からギターを抱えて来た人たちが、君たちの存在を目にすると諦めたようにいなくなってしまったっていうのを見たことがあるのね。

† えっ。…うそ?

◇ま、君は通行人に背中を向けて池をぼへ〜ってながめながら弾くというストリートミュージシャンの風上にも置けないような暴挙をかましてましたからね。それはもう気分よさげに(笑)

† え、マジ?

◇そのとき一組の方をつかまえてですね、話を聞いてみたんだけど、一言「今日は最悪だ」と(笑)「こんな濃いメンツの中じゃやれないしやりたくない」そんなことを仰ってましたよ。しかもキミら3組が絶妙な距離をあけて良い演奏をしてるからどこにも割り込めない(笑)

† あぁ、その人も公園音楽が好きなんだねぇ。音が喧嘩しちゃわないよーにって思ったんだろね。悪いことしたなぁ。ま、カンさんと少年山賊団さんは素晴らしい公園音楽家だもんねぇ、有名人だし。俺も遠慮してますよ、いつも。

◇キミもその一員なんだという自覚はないんですね(笑)。そういうオンリーワンたちの中に入ってくのはきっとすごく勇気がいるんだと思いますが?

† そーかなぁ。そんな勇気とか大仰なもんいるかなぁ?ただの遊びじゃんか。遊びに理屈はいらないと思うんだけど。

◇相変わらずキミの音楽の基本は「遊び」なんですか?。そこらへんはライブを重ねるようになった今でも変わってない?

† そうっすね。

◇オンリーワンの意識もない?

† ん。無関心がデフォルトなんだろうね。オンリーとかワンとか個性とか差とかどうでもいいしワカラナイ。今って、いろんなところにオンリーワンがいっぱいあるしね。だから結局、何をやったって、オンリーズでしかないしワンズでしかないよね?

◇天の邪鬼体質全開な発言されてますね(笑)

† うん。そこは自覚ある。でも例えばさ、民族楽器とか古楽器を、デジタルと融合させたり、そーゆー楽器でロックや現代的な音楽をやるのってのも、今風なのかもしれないけど、新しくはないよ。誰だってやってるもん。斬新だって言われるよーなことだって、どっかで誰かがやってると思うし。それこそ【微炭酸】みたいな得体のしれない不定形の化け物バンドだってあるんだしさ(笑)ま、こんな御託だって、今までにいろんなとこでいろんな人が言ってんじゃん。だから俺は自分の好きなことを好きなようにやれればそれでいいよ。

◇ 俺様な芸風もデフォルトだったんですね、キミは(笑)新たな発見です。

† 理屈や環境より身体と気持ちを優先。それに俺自身が理屈云々にアンテナ立たないんで。コードがどーの展開がどーの技巧が、とかってのもどーでもいい(笑)技やアイディアは重要かもだけど、そういう幅ってのは必要なときには広がってくものだし。技やアイディアたけで音を出したら、うんざりしそうじゃん? 遊んでる俺がうんざりしててどーすんのよ、みたいな。

◇技巧やトリックはいらない、と?

† 栄養素って偏ったらダメじゃん? カルシウムがイライラにはいいからって、毎日毎日毎食毎食煮干しばっか山盛り出されたらイライラするじゃん。

◇謂い得て妙ですね。

† トリッキーなこととか、良いアイディアは必要になった時に使えればいいと思ってます。ま、そこでそれが技量的にできないんだったら、できるまでやろうとはするけどね。新曲がそんな感じだったし(笑)

◇必要な努力ならする、と。

† 必要なら努力とも思わないでやるでしょ。まぁ、まだ相も変らず野外の空気に包まれて、気の向くままに音出して、ってほうが楽しいんで、ね。そーゆー中で何気ない音やフレーズが誰かの耳に留まってくれればそれで全部おーらいなの。

◇なるほど。

† 『ライブハウス“ソラのした”』ってそーゆー場所なんだよ。

◇ライブハウス“ソラのした”。なんか素敵ですね。

■■自分の遊びは自分で愉しみたいんすよ■■

◇セッションなどはするんですか?

† 公園だとふらっと入ってくる人もいますね。(指折り数えながら)ギター、ディジュリドゥ、オカリナ、アコーディオン、ジャンベ、バイオリン、トランペット、ハーモニカ、ピアニカ、篠笛。あと、この前、スタジオ入ってマリンバの方とも遊びましたよ。

◇楽しそうですね。そういう人にサポートをお願いしたりはしないんですか?

† 時折、他の楽器の音が欲しくなったりするんだけど、ライブでサポートを頼もうとはまだ思わないな。自分から声かけたりするの面倒なんですよ、すごく。時間合わせて練習したりとかも。

◇なまけ体質も相変わらずですね。でもそれだけですか?

† なんか今日は食下がりますね、坂井さん。

◇必死よ(笑)それに今日はいろいろ勘ぐってみようと思ってるので(笑)

† それだけだよ。って言ってもいいんだけど?(笑)

◇そんなこと言わないで(汗)

† ……【壱零base】ってライブでも屋外でも遊びだからさ。誰かが入ってくれるのは遊びとして素敵なんだけど、でも、そこでさ、あの楽器が入らないとこの曲はライブでできねぇや、みたいになるのが嫌なんですよ。だから。

◇自分と曲に責任は持ちたい?

† 責任かぁ。。。考えたことないけど、そうなのかもな。責任ね、うん。なんなんでしょう、一体。誰か俺を説明してくれ(笑)ま、いつかどっかで仲間と一緒にライブしたいしアルバムも作れたらいいなって思ってます。かなり先のことだろうけどねぇ。

◇そういうのを待ってるファンも多いんじゃないですか?

† 多いのかなぁ。そこらへんは分からないんだよね。そーゆー声も要望も聞こえないし、リサーチとかもしてませんもん(笑)でも、俺の音楽活動は利潤の追求がメインじゃないんで、そこでそーゆーのを待たれても「ごめんなさい」ってしか言えないかなぁ。

◇そういう意見ってホントに聞こえてきませんか?

† 音楽って、聴く人によりますよね?音数の少ないのを好む人もいるし、間と余韻を好む人もいるし。逆に音が多いのを好む人もいるし。だから、要は、その人の中でどんな音が鳴るのかってことなんじゃないかなぁ。同じフレーズでも「せつないですね」って人もいれば、「楽しいですね」って人もいるんだよ。おもしろいよね(笑)だから、ハンマードダルシマーの音は鳴るけど、それを補う他のパートは、聴いてる人の中で好きなように鳴ってて欲しいんだよなぁ。

◇その、「曲」ですが、どのようにして作るんですか。

† なんとなく。

◇怒りましょうか?(笑)

† ほんとになんとなくですよ。ハンマードダルシマーで遊んでるうちに、おっ!?て感じで頭の上に「?」とか「!」が飛び出るフレーズが生まれたりするんで、そういうので延々と遊んでると、その先にくる音もいつか出たりして。そうやって進んだり退いたりしながら育てるんですわ。

◇十兵衛パパですね。

† うん。ついこないだまで小っちゃいのと一緒に遊んでたのに、今じゃこんなでっかくなっちゃったなぁ。なんて感慨が子育ての醍醐味っすね(笑)

◇実感こもってますよ(笑)

† だってパパだもん。子育てって試行錯誤らしいし、コツも「忍耐と寛容」らしいんで、曲もそこらへんをベースにして気長に遊ぶんです。

◇育て方を間違ってしまった曲なんて無いんですか?

† 親はなくとも子は育つよ。てか、親はいい加減なんだけど、環境が良いおかげで良い子が育ってる、そんな感じ(笑)聴いてくれてる人たちが良いご近所さんちっくなんだろね。いろいろ大切にしてもらってんです。CDに入ってるけど、公園でもライブでもやらない曲を気に入ってくれてた人が、偶然井の頭公園で俺を見かけた時にリクエストしてくれたりとかあったんだけど、そーゆーのってすごくありがたいし嬉しいんよね。

◇人それぞれ感性や好みがありますからね。

† だから、俺も自分の遊びは自分で愉しみたいんすよ。てぇか、音楽の根っこって、そこじゃないの?

◇ここでそれを問いかけられても…。

† 誰かの顔を想像しながらとか、高額紙幣の顔を想像しながらって曲はプロにお任せしますよ。やはり遊びは自分が愉しくないと(笑)

              =第2回 了=





◎ インタビュー 第1回 ◎

■■生身の俺一人じゃないんだよ。ってことで■■

●いましたね、昨日も(笑)

† 肉まん御馳走様でした(笑)てぇか、坂井さんさ、俺がしょっちゅうあそこにいるみたく思ってません?

●うん。毎日いるんじゃないかと思ってます。


† ははは。んなことあるかい。アベレージ的には週イチも無いっす。天気よくて時間あるとさ、誘われる感じでふらりと。

●ふらりと。あそこに行くようになってどのくらいですか? 今回は【壱零base】初体験な方への自己紹介も兼ねてそういうこともお聞きしようと思ってるんですが。

† 自己紹介。(笑)

●そう、自己紹介。

† 【壱零base】こと天野十兵衛です、ピアノの先祖のハンマードダルシマーというちょっと奇天烈な楽器を弾いてたりする人です。以後お見知りおきを。もう多分3年ぐらいは井の公にお邪魔してます、はい。

●まったく自己紹介になってませんね(笑)

† や、でも、俺はここが光るんだぜ、キラリ。みたいなとこが自分で見つけられるから自己紹介ってできるんじゃないっすか。特に何の特記事項もない没個性的平均男子ですからね俺。

●あんな個性のカタマリみたいな楽器奏でて、道行く都会人の乾いた心に潤いと優しさを与えてる人が何言ってるんですか(笑)

† 潤い……優しさ……ははは。本人そういった文字列からは縁遠い人間です。まぁ、それはほら、ハンマードダルシマーって楽器自体が素敵に個性的だから。……俺はどっちかってぇと操られてる方。黒子的役割です。ガンダムでいうならアムロとかじゃなくてモビルスーツ。鉄人28号なら正太郎少年じゃなくて鉄人の方。

●強いじゃないですか(笑)

† の、すぐやられちゃうロボ系。要するに生身の俺一人じゃないんだよ。ってことで(笑)

●つまり【壱零base】は天野十兵衛くんとハンマードダルシマーのコラボレーションであると?

† ……なんだろうね? コラボレーションっていうならそうかもしれないけど、要素的には俺って一番小さいんじゃないかなって思う。ハンマードダルシマーとソラと光と風と気紛れのコラボレーションってとこかもね。だって、坂井さん、俺ね、曲とか作ろうって思ったことがないんですよ。

●いきなり冗談みたいなこと言ってますね。ライブもやってアルバムまで作っちゃった人が。

† ほんと、冗談じゃなく。あんまりちゃんと考えたことないけど、でもほんとそう。俺ってのは、単なるフィルターみたいなもんだもん。公園や街角にいるとなんとなく出したひとつの音が、おもしろいくらいにその場の雰囲気や俺の気分にはまることがあって、その一音に重ねる次の音、その次の音、さらにその次、がいい具合に雰囲気と気分に溶け合ってフレーズが育って。そうこう遊んでると、いつか忘れちゃうフレーズもたくさんあるんだけど、残るフレーズもあるのね、自分の中に。で、それをまた別の時にふと思い出したりして遊ぶじゃないですか。そういうのの積み重なりみたいなもので曲らしきものが出来てくる。そうやって曲のプロトタイプみたいなのと戯れてるうちに、なんとなくだけど「これはこーゆう人なんだ」ってのが見えてきて、って具合です。だから、曲を作ろうとかって思ったことが無い(笑)

●まず、雰囲気ありき?

† そんな感じ。『夢十夜』で、木の中には仏像が隠れてて彫刻家ってのはそれを取り出すだけ、みたいな話があるじゃん。【壱零base】ってのはそんな感じだろうって勝手に思ってるんだけど、ハンマードダルシマー使いとしてはまだまだ拙いし日も浅いから、結構いろいろと不自由です。わがままな楽器さんだし、ヤツ(笑) ま、ヤツのもつポテンシャルの中、自分の拙い技量で遊んでるってだけです。



■■聴く人によって180°印象が違ってたり■■
■■とか、そういうのが面白いな。      ■■



●そもそもなんで十兵衛くんはハンマードダルシマーを弾き始めたの?

† 弾きたかったから。

●その答えはギャルのみ可です。

† 大抵、楽器を手にするのって衝動じゃないですか?

●いえ。あの人みたいに弾きたいとかこのフレーズ弾いてみたいとかもてたいとかっていう下心があるのが没個性的な平均的男子ですよ(笑)

† え、うそだそれ。だって俺、下心とか無いもん。

●だから十兵衛くんが規格外。イレギュラー。

† 承服いたしかねます(笑)

●じゃあ、それは置いといて、ハンマードダルシマーとの馴れ初めなどをお聞かせ願いませんか?

† 馴れ初め?(笑) 一目惚れ、かな。てぇか一聴惚れですね。渋谷で外国人が弾いてたのを聴いて、それで欲しくなった。

●で?

† 即購入。

●そこらへんをもう少しお願いします(苦笑)

† えーと、音を聴いて「なんじゃこれ?」と思って、音のするとこまで近づいてったら、見たこともない楽器を外国の方が弾いててね、でも時間がなかったからほぼ素通り状態で家に帰っちゃったんですよ。でも、ぱっと見、民族ちっくな楽器だったから「むげん堂」か「はるばる屋」あたりにあるだろうと勝手に決め付けて。後日、何の気なしに覗いてみた「はるばる屋」に同じようにヒステリックに弦の張ってある印象的な楽器が偶然置いてあったんで、値段聞いたら20万くらいだって言われて。で、ヒビ入ってたり弦切れてたりしてかなり不具合ありそうなやつだったから、いつからあるんだって聞いたらもう10年くらいは置いてあるっていう(笑)だからそれの名前だけ覚えて、ついでにCDコーナーでその楽器が使われてるわけのわかんないCDも1枚だけ買って帰ったんすよ。

●とりあえず入り口が偶然見つかったって感じですね。

† うん。サントゥールって楽器だったんだけど、調べてみたらイランの古典楽器ですごい古いもんだってのがわかったの。でも、それと俺が渋谷で見たのはどっかが違ったんですよ。だから、そのあともいろいろ調べてみたら中国では揚琴ていう楽器があるんだっていうのがわかって、その後かなハンマードダルシマーに辿り着いて、「これだ!」って。

●で、衝動買い。と。

† そんな感じ。ただ、売ってるところとかわからなかったんで、不躾ながらもプロの方にメールで問い合わせたら、使ってる楽器のメーカーを教えてくれて。それからは、中学1年生レベルの英単語を駆使してアメリカの会社とメールのやり取りです(笑)

●今のような演奏活動はいつごろからですか?

† ん? 公園とかでのってこと?

●そう。

† ん〜……演奏ってよりむしろ遊びだろね、俺のは。演じますよ聴かせますよみたいなサービス精神が無いからさ、俺。パフォーマンスするって気が無いんですよ。むしろ苦手ですそーゆーのは。単純に公園で、池の波打つキラキラな光とか空の色とか小さい人の駆けてく姿とか眺めながら音出して遊ぶ。それが好き。

●だからかな? 気づくと心地よく旋律が響いてるのは。最初、十兵衛くんの演奏を聴いた時に、おかしな話だけど、景色の音かと思ったのね。夏の終わりだったですけど、夜に向かって暑さの鎮まってく夕暮れの感じや、蝉の声とかそよ風を感じてる自分の気持ちの中で鳴ってるメロディだと無意識に思ってて。いや、ちがう!と。

† したら、そこにいたのはこんなヤツ。みたいな(笑)

●そうそう、素敵な人が。ね。いましてね、今ではこのようにお話させていただけるようにまで。

† スターバックスのラテと伊勢屋の焼き鳥で餌付けを(笑)

●はい、長い道のりでした。でも、【壱零base】の音っていうのは、よくいるストリートミュージシャン系な人のように音をかき鳴らすでもなく、声を張り上げるでもなく、ただハンマードダルシマーの響きと旋律を空気にブレンドさせて、道行く人の気持ちをそっと撫でていくような感じが優しいですよね。

† ま、不思議な音色の楽器だからね。寒い日に聞く人は冬の音がするって言うし、暑いときに聞いた人って夏の音がするって言う。夕暮れに聞いた人は感傷的な音だって言うし、気分よく晴れてる日には空と風の音だって言う。同じ曲で遊んでても、聴く人によって180°印象が違ってたりとか、そういうのが面白いな。

●気持ちを映す鏡みたいなものだ、と?

† んな、端的なかっちょいいこたぁ言いませんって。でもさ、気分で聴きたい音楽って変わらない? 俺は朝、セルジオ・メンデスの「what is this」とGURUの「no time play」が聴きたかったからずっとそればっか聴いてたんだけど、昨日の夜はストーンローゼズの「ブレイクアウト」の気分だったんですよね。だからって、坂井さんにセルジオ・メンデスとGURUを聞かせても、夕べの俺がどんな感じだったかなんてわからないしローゼズのを聴いてもらっても今の俺がどんなんだかわかんないよね? 音楽って聴く人の超個人的なものだと思うんですよ、そーゆうとこが。

●あんまりよくわからないんですが(笑)

† うん、俺もよくわかってない。。。すんません(笑)なんつーんだろう。ダイヤが宝物な人もいれば、カエルの卵が宝物な人もいるってことかもしれません。

●余計わかりづらくなってます!(笑)

† 難しいっすね、言葉って。

●だからこそ言葉があるんです。頑張ってください。

† …なんつーんだろ……モノって解釈の仕方と思い込みとか思い入れで、意味や価値が変わるでしょ。「これが好き」っていう思いだって、それと出逢った瞬間の光線加減とか気温とか誰といるかとか何を感じてたかとか、そういう偶然がそれに重ねられてるわけじゃないですか? ショートケーキでわくわくしちゃうのって、誕生日のケーキのシアワセな記憶だったりするんじゃないか、と。

●キミは喩えがどこかおもしろいです。

† そう? でも結局、音楽でも何でもそういうもんなんじゃないかって思うっすよ俺。だから、鏡みたいに自分の細部までをズバンって映すようなもんじゃなくて、その人の心の何処かここんとこに在る小さな小さなものをくすぐってくようなもんだと思うんですよ。って答えでどうですか?

●「思い出スイッチ」ですね。

† うん、そんなとこ。わかんないけど(笑)


■■そんなときの、ふとした音楽■■

●【壱零base】は「思い出スイッチ」でありたい。と。

† や、そういうのは考えたことないや。でも、公園や街角で音を聴いて、いろんな人がいろんなことを思い出したり感じたりしてくれるなら、なんだか音楽って感じでイイよね。

●音楽?

† うん、音を楽しむから音楽。音で楽しむから音楽。それがいいよ。

●先ほど「パフォーマンス」ではなく「遊び」と言ったのはそういうところからですか?

† あ、……そうか。

●そうか、って!(笑)

† 理屈なんて結局、自分の衝動とか気持ちを納得させるための後付けする言い訳だよね? 

●平均的男子はそんなふうに考えないし言わないんだけどな、十兵衛くん。(苦笑)

† や、公園でも街角でも、ただ音出して遊んでるだけなんすよ、俺。それが楽しいんだもん。

●「遊ぶ」ということが十兵衛くんには重要なわけですね?

† ホモ・ルーデンスだから。

●また、そーゆう不思議な単語を何処からアナタはもってく るんですか。

† ホイジンガ。

●ごめんなさい、それわからない。

† いいです、わからなくて(笑)「ホモ・ルーデンス」ってのは「遊ぶ人」。ホイジンガって人が言ったらしいんですよ。それが妙に記憶に残ってんですわ。ホモ・サピエンスってのは「考える人」って意味らしいんだけど、それよりもなんか俺にははまる気がして。

●さりげなく読書家だよね、キミ。

† そんな大それたもんじゃなくて、ただ文字列を眺めるのが好き、それだけ。

●文字を読むのも遊び?

† うん。「愉しい」ってのがキーなんですよ、俺には。「楽」の字じゃなくて愉悦の「愉」なんだけど。本を読むのも、友達と遊ぶのも、音を出すのも全部遊び。生活全部が遊び。そんな感じ。そんな日常の中での【壱零base】ってのは、重要な遊びですね、俺には。【微炭酸】もだけど。ついで言うと、そうやってハンマードダルシマーで遊んでる中で、いろんな人、それこそ小さい人から人生の大先輩とか異国の方とかと境目なくいろんな話ができるのも楽しいっすね。世界って広くて、いろんな人がいていろんな言葉があっていろんな考え方があっていろんな音楽もジャンルもあって、とにかく多種多様。だからこそ、共通してるものってのを大事にしてぇな、って最近感じるんです。ときどき、【壱零】に歌は入れないのかって質問もされるんだけど、今、俺がハンマードダルシマーだけでインストをやってんのって、そういうことでもあるんすよ。俺も聴く人もどういう形であれ、音で楽しめるってのが先ず。言葉で縛ることってのはとりあえずやめようかな、と。アルバムにも書いたんだけど、曲にタイトルもいらないような気がすんの。聴く人が何かを感じてくれるだけでいいかなって。だから、ただのオンガクでいいんじゃねーかなって、ね。愉しい遊びです(笑)

●愉しいというか、それを遊びって言ってのけるキミが素敵ですね。

† おだててもベロぐらいしか出せないよ、俺。

●でも、音楽をただそこに鳴らすだけで、様々な人と言葉を交わしたり交わさなかったりしつつ、コミュニケーションしてるわけですから、それを「遊び」と括ってしまうのは、素敵以外の何事でもないと思うのですが。

† 音って、元からそういうものでしょ? 人ごみで俺がいきなり地面にグラスを叩きつけたら、びっくりする人もいれば気付かない人もいるし、気付かないふりをする人だっているじゃん。救急車のピーポーピーポー音でなんとなく不安になったり、盲腸で運ばれたときを思い出したりさ、葉ずれの音で風を感じたり、あの夏の思い出が蘇ったりさ。そんなじゃない? 何か鳴ってりゃ、つーか何かが在れば、それはいつだって必ずその人の記憶の扉をノックしてるんだと思う。ただ、そこで俺は、道端でグラスを叩き割るんじゃなくて、ハンマードダルシマーと遊んでるだけなんすよ。

●感じてほしい、と?

† そういうことも強くは思ってないんだけどね。でも【壱零base】がそういうのだったら、いいなぁとは思う。それぞれの人にはそれぞれのそのときのシーンがあるよね。気分が良かったり、ムカついてたり、ぼんやりしてたり、恋してたり、悩んでたり、嬉しかったり、言葉では括れないほんとにいろんなシーンがあるじゃない。そんなときの、ふとした音楽って感じで【壱零base】の音が鳴ってたら嬉しいなぁ。



←左は知人の坂井女史によるインタビュー(笑)
  下のほうにある第1回は、どこぞで記事になったようです。
  第2回と第3回のインタビューは、このサイトのために趣味でや
  っ
てくれたのです。
  いろいろとご迷惑をおかけしましたけど、ありがたいですわ。
 
多謝。


  天野十兵衛

気まぐれな公園音楽人。
ピアノの原形となった打弦楽器「ハンマードダルシマー」を衝動買いしたことにで【壱零base】としてライブ活動を開始。 雰囲気のままにハンマードダルシマーと戯れつつ曲を生む。音と風と遊ぶ。
神出鬼没ながらも吉祥寺駅周辺や都内数箇所の公園&街角に出没。
誘われて気が向くとライブします。拉致体質か。


[好きな曲]

tublar bells(the mystic sounds)
Beat(en) Generation(the THE)
Tubthumping(chumbawamba)
love the one you'er with(Isley brothers)
low rider(WAR)
fast boy friend(girl's at our best)
brake out(the stone roses)
Fly me to the moon(Frank Sinatra)
Lazarus(the boo radleys)
Philosophy(Ben Folds Five)
sunny day(Long Beach Dub Allstars)
gone gone(sportsguitar)
who do you think you are(saint etienne)
always something there to remind me(espiritu)
EXTERMINATOR(primal scream)
life in a northern town(Dream Academy)
it's a fine day(opusV)
Evereybody need somebody to love(blues brothers)
what's going on(Marvin Gaye)
semi-charming man(third eye brind)
there must be angel(sharon forrester)
lovefool(the cardigans)
la banba(los lobos)
tequila
ALL THAT SHE WANTS(ACE OF BASE)
batonga( handred birds)
country load(jhon dember)
BOXER(S&G)
takefive(The Dave Brubeck Quartet)
Never Gonna Give You Up(Richard Paul Astley )